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精霊伝説:波紋を斬る者 ヴェル、災渦の日記 (+カヤ・ボーフォートのセルフォリーフの日記、アンジェリカ・ラッセルの偽島探検記+イシュケ、翠祀)
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宿に帰ってくるとほっとする。
ここはいつ帰ってきても空気が綺麗だ。
窓を開けると潮風の匂い。
海風が気持ちいい。
俺は窓を開けたままシャワーを浴びた。
水霊だけじゃなく風霊や潮霊まで遊びに来て、俺の髪を引っ張って遊んでる。
この空気がとても俺には気持ちがいい。
 
シャワー浴び終わってからも精霊たちと遊んでいたが、そういえばこのあとの行動を決めてなかったと不意に気づいた。
精霊たちに手を振って、斜め向かいのレグの部屋へ。
レグは多分部屋にいるはずだ。
 
ノックをすると珍しく
「ちょっと今手が離せないから入ってきてくれ」
といわれた。
「なんかしてんの?」
部屋に入るとヴェルが笛を並べて手入れしていた。
普段使っている笛以外にも持ってたんだ。
 
「また後でこようか?」
なんだか取り込み中にきちゃったようだし。
夕食のあとでもいいや。
「いや、もうちょっとで終わるからちょっと待っててくれ。」
笛を磨くってこんな作業なのか。
なんか手入れするのも大変なんだな。
やっぱり神にささげる音だとそれなりに気をつかうのかな?
 
「そういえば次はどこへ行きたいか決めたか?」
ぼーっとレグの手元を見ていたから一瞬何を聞かれたのかわからなかった。
「新しい仕事もあるんだっけ?」
と言えたのは俺にしては上出来だ。
「精霊協会が組織している精霊戦士隊との模擬戦の訓練だな。模擬戦と言っても手は抜かない真剣勝負で危険もあるからか、報酬は良い。」
「ん・・・お金手に入っても石買うしかないからな・・・宝石掘りでもどっちでもいいよ。」
精霊協会のお金って本当に石ぐらいしか使う用途がない。
俺は水の力を増幅する石が欲しいんだけど、なかなか引き当てられないでいる。
ちょっとまどろっこしい。
「せっかくだから技を重ねてみないか?」
技を重ねる?
そういえば、この前の大会で誰かがやっているのをみたような。
「技を重ねるってどうやるの?」
「俺が呼び出した精霊から火の力を借りて火の奔流を放つから、この技にあわせてヴェルが技を繰り出せば大ダメージを与えられると思うんだ。」
「へぇ、面白そう。じゃあちょっと訓練でもいってみる?」
「わかった。」
 
この会話の間もずっとレグは笛を磨いてた。
丁寧に丁寧に、ときおり笛を光にかざしたりして曇りを見たりして、なんか大変そうだ。
「じゃあ、俺戻るね。作業頑張って」
「あ、ヴェル」
ようやくレグが手をおいて、俺の方を向いた。
「この宿を貸し切る代わりに女将さんに何を渡したんだ?」
そういえば、聞かれてたっけ。
えっと、俺何か言えないんだよな。見せるか。
「・・・・見せる方が早いな。ちょっと待ってて持ってくる」
 
部屋に戻って荷物袋をあける。
その中に小さな小さな革袋を取り出した。
中には数枚「アレ」が入ってる。
この際、大きい革袋は見せなくてもいいだろ。
俺は小さな革袋を持ってレグの部屋に戻った。
なんだか、レグはちょっと真剣みたいだ。どうしたんだろ?
俺はレグの前で掌の上に「アレ」を出した。
 
「これ、何かわかる?」
レグが目を見開いてる。あ、これはわかったな。
「これ・・・人魚の鱗か?まさか。」
「やっぱり知ってるか。そう。」
まぁ、ぶっちゃけ   のなんだけどね。
さすがに   の鱗とは言えないよな。
いっても信じてもらえないだろう。呪いが解けるまでは。
「あぁ、知っているさ。なぜヴェルがこれを持ってるんだ?」
「ん・・・それはレグにもいえない。これ、すごいものだから、入手経路をうかつに話して他人に迷惑かけたくない。」
「この鱗を持っているだけでも珍しいのに、その上こんなにたくさん持っているなんて普通では考えられないな。」
「俺、別に悪いことはしてないよ。でも、事情が特殊すぎて話せない」
「あぁ、ヴェルがそんなことをするとは俺も思っていない。だが、すまん。どうしてもその特殊な事情が知りたいんだ。ダメか?」
 
・・・・・困ったな。
確かに「アレ」に興味を示すヒトや人間が多い事は知ってた。
でもレグもそんなに興味があるとは思ってなかった。
さすがにこればっかりは軽々しくいえない。
禁忌にスレスレだ。
だけど・・・・レグは真剣だ。真剣に知りたいと思ってるみたいだ。
俺はため息をついた。
「・・・・誓って」
「何?」
「レグの神聖な物に誓って。俺がこれから話すことは絶対誰にも話さないって。そうじゃないと話せない。」
 
レグは窓をあけて外を眺めた。
まだ表通りには少し人がいる。
ヴェルは隣の家との間の小さい道に面した窓を開けた。
何をきょろきょろしてるんだろう?
「ちょっと外に出られるか?」
そういってレグは軽く肩にいつものストールを巻いていつもの短剣を持って下に下りていった。
 
 
隣の家との間の道は少しだけ曲がってて表通りから見えない。
それにこの道はタイル張りじゃなくて土がむき出しになってる。
そういえばレグは大地の民だったな。
そう思って見てたら、いきなりレグが厳かに短剣を抜いた。
短剣を媒体にして大地に誓うんだろうか?
そう思っている俺の前で、少し何かの言葉を呟いてから、レグは短剣で掌を切った。
赤い血が流れてる。
血が・・・・
誓いの言葉を紡ぎながら血が流れてる。
聖なる・・・・聖なる儀式で血を・・・
 
『あのこのお母さん聖域で血を流したみたいだよ』
『だから、あのこ、あんななんだ。かわいそう。』
『かわいそうじゃないよ!聖域を穢すなんて』
『あれは穢れだ。近づいちゃダメだよ。』
『けがらわしい』
 
俺は首を振った。
レグから流れた血は大地に数摘落ちて、そして光を放った。
これはレグと大地との契約だ。
光がレグの左手に集まっていく。
血を流すといっても、これは穢れじゃない。これは神聖なものだ。
 
『穢れはお前だ』
『穢れ』
『近寄るな!あれは呪いつきだ』
『忌むべきものだ』
 
違う!レグは神聖だ。
呪われているのは、忌むべきものは・・・俺だ。
 
「これでいいか・・・・・ヴェル?顔色が悪いが、どうした?」
神との誓いは終わったみたいだ。
レグは確かにこれから俺が語ることを誰にも話さないと誓ってくれた。
しっかりしないと。
「いや、大丈夫。神聖な儀式で血を流すってのが想定外で。あんまり気にしないで。」
俺たちはレグの部屋へと戻った。
レグの短剣は血を流したとは思えないぐらい神聖なものに見えた。
 
 
部屋に戻って俺はもう一度袋からアレを取り出した。
「これは俺の故郷でなら簡単に入手できるんだ。だけど、そのことがばれると、俺の故郷がとても騒がしくなるだろう?だから、手に入れる方法は一族の秘中の秘だ。
でも、レグ誓ったから・・・・・俺の国のある場所、ある季節に、これが海から集まるんだ。
でも、こんなこと世間にばれたらどうなるか。
これ以上はいえない。俺はこれ以上の呪いはごめんだし、禁忌は犯せない。
でも一つだけ。
世の中にはこれを手に入れるために、殺したりする人間たちもいるみたいだし、世間では血も貴重なものと信じられているみたいだけど、俺たちは殺したりしないし、血を流すことはしないよ。」
 
レグは黙って聞いていた。
俺は今度こそ部屋に戻るね、といって部屋に戻った。今度はレグも引き止めなかった。
夕食のとき、女将がいろいろ話してくれて、俺もレグも適当に話をしていたけど、なんとなくよそよそしかった。
 
 
 
 
久々に夢の回廊を渡る。
あの稀なる奏者の回廊は最近揺らいでばかりだ。
ヴェルからいろいろなことを聞いて、あの奏者も揺らいでいるのだろう。
本当はもう少し揺らぎが収まってから訪れたいところだが、今日ばかりはそうも言っていられない。
彼の奏者に伝えねばならないことがある。
 
「久しいの。稀なる奏者よ。一つ頼みを聞いてくれるか?」
彼の奏者は久々に来た私に何か聞きたそうだ。
「そなたの儀式を今後ヴェルの前でしないで欲しい。極力で良い。
今後もヴェルのほうから求めることがあるだろうから」
「何かあるのか?」
「あれの呪いについては聞いたであろう?
あれにとって聖なる儀式で血を流すことは母親の犯した罪や自分の過去を思い出す引き金になる。
先も心の臓が壊れてしまうかと思うたわ。
妾がついておって、あそこまで心に影響するとは思わなんだ。
すまんが、あれの前ではできるだけ避けてくれ。」
 
まさか、あそこまでトラウマがあろうとは・・・私にとっても予想外だった。
なんとかしてヴェルが誓いを求めるようなことを少なくしなくては。
彼の奏者は何やら思いあたるところでもあったのか、考え込んでいるようだ。
 
「まぁ、よいよ。それよりも妾の言うたことを少しは信じてもらえたかの?
妾はあれと妾の呪いを解くために其方の手を借りたい。」
 
そういったところで、胸が引き裂かれるような痛みをおぼえる。
これは・・・・
 
「と、言いたいところじゃが、今日のところはここまでじゃ。妾は戻らねばならぬ。」
 
今日のうちに伝えねばならないことは伝えた。戻らなければ!
 
 
 
 
 
『忌み子だ』
『汚らわしい』
 
違う!
 
『お母さんがやっちゃったんだってね』
『お母さんのせいでこんなになっちゃったんだって?かわいそう』
 
違う。母は悪くない!母は優しい人だった!
 
『穢れ』
『呪われた子』
 
違う!違う!
 
『何が違うのだ?呪われた子よ。』
『人魚のことは我らの秘中の秘。何故明かした。』
 
レグはちゃんと神に誓ってくれた!
 
『血を流す儀式が神への誓いか?』
『呪われた子よ。それが真実であると誰にわかる?』
 
だって、地霊たちも祝福してた!
 
『呪われた子』
『厄介もの』
『我らに不幸をもたらすぞ』
『追放しろ!』
『追放しろ!』
『力を奪って追放しろ!』
 
・・・・・俺は。
 
『もう戻れないように呪いをかけよう』
『守護精霊などいらないのではないか?この忌み子には?』
 
災渦!いやだ!俺は・・・俺は・・・・
 
不意に青い光が俺をつつんだ。
災渦・・・・災渦がそこにいた。相変わらず俺の前では人形のように表情を殺されてる。
災渦・・・・いなくなったりしないよな。
頷くこともできないし、首を横に振ることも出来ないのは知ってる。
だけど、俺を青い光がつつんでいるから、きっとそれが返事なんだよな。
 
そして、災渦は青い光だけ残して消えた。
一人残された俺は絶望のあまり立っていられなくなった。
 
 
 

 
 
朝の光が俺を起こしたとき、俺の気分は最悪だった。

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