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精霊伝説:波紋を斬る者 ヴェル、災渦の日記 (+カヤ・ボーフォートのセルフォリーフの日記、アンジェリカ・ラッセルの偽島探検記+イシュケ、翠祀)
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アーベルと別れて宿に戻ってきた。
久々の宿でほっとする。
今回の依頼はかなり楽だったけど、それでも戦闘のあとは血の臭いが残ってる。
女将は気にならないのかな?
俺は海の見える部屋に入って、シャワーを浴びた。
水霊が遊びに来て俺の髪をつんつんしている。
 
 
髪についた水をタオルで拭きながら部屋に戻り、服を着替えるとさっぱりした。
また服の洗濯をお願いしないと。
服を抱えて下に下りて行くと、女将は何やら帳簿をつけていた。
 
「これお願いできる?」
 
「はいはい。あずかりましょ。ところでヴェルさん?」
 
「ん?何?」
 
何やら女将は話しにくそうにしてる。
何かあったのかな?
今夜の食事の話?俺達急に帰ってきちゃったし。
うーーん、女将の手料理食べたいんだけどな。
ここ以外だとあんまり食べれるものないし。
 
「ここ貸切されていることレグさんに話してはらへんかったんですか?」
 
「なんだ。そのことか。そういえば忘れてた。あとで話しておくね。」
 
何かと思ったら。
そういえばレグにはそういう話してなかったや。
うーーん。これも仲間なら話しておくことなのかな?
俺一人が長すぎていまいちどこまで話していいのかわかってないかも。
 
「うち喋ってしもうたんですけど。」
 
「ん?いいよ。レグに話すの忘れてただけだから。鱗の話もしちゃった?」
 
「いえ、それはさすがにしてませんえ」
 
「喋ってもレグになら大丈夫だよ。あいついい奴だから。女将もそうおもうだろ?」
 
「へぇ、レグさんはええお人ですけど、ヴェルさん無防備すぎるから心配やわぁ」
 
「俺、見る人を見て無防備になってるだけだから大丈夫。ありがとね」
 
女将でも鱗の話はしないのか。
うーーん。難しいな。仲間って。
災渦なら何も気にしなくていいから楽なんだけど。
とにかくレグの部屋に行ってみるか。
俺は髪をくしゃくしゃっとしながら、レグの部屋のドアを叩いた。
 
「どうぞ」
 
レグはいつもドアを開けてくれる。
おれは手をひらひらっと振りながら「やっほー」といって部屋に入った。
 
 
 
次回はどうするかレグに聞かれて、俺はちょっと悩んだ。
手持ちが少ないんだよな。
精霊協会の通貨は特殊すぎて、俺の持っているものでは交換できないし。
お金を得るには・・・・
 
「俺もう一回隊商護衛でもいいよ。」
 
レグは驚いてる。
この前のとき俺ひどかったしな・・・。
でも、今は災渦も全快だし。
あれ、前回の隊商護衛いえば・・・・
 
「わかった」
 
レグは頷いて、本当に大丈夫か、無理するなとか言ってるけど、俺はもう別のこと考えてた。
 
「レグ」
 
「どうした?」
 
「ごめん!!」
 
「・・・・・やっぱりやめるか?」
 
「そうじゃなくて、前回の隊商護衛のとき、俺寝ちゃってごめん。せっかくレグが話してくれてたのに。
 俺、あのときなんか眠くなっちゃって。ほんとごめん!!」
 
そう。
前に隊商護衛の任務についていたとき、レグに何で精霊協会に来たのか訊くだけ訊いて、俺は寝てしまったんだ。
レグの語りを子守唄のように聞きながら。
 
レグは一瞬思い出せなかったのか遠くを見る目をしてたけど、すぐにわかったらしくて、破顔した。
 
「なんだ、そんなこと気にしてたのか。あの日ヴェルは体調悪かったんだろ?気にするな。」
 
「でも、ごめん。そうだ。俺が精霊協会にきた理由が聞きたかったんだっけ。」
 
アーベルといっしょにいたときにレグに訊かれたけど、アーベルにはさすがに聞かれたくなくて、宿でって言ったんだった。
そろそろレグになら話してもいいや。
 
 
 
俺の一族・・・・俺たちは海に近い特殊な一族で、普通の人たちとは種族が違っている。
それで、俺たちは一人に一人の守護精霊がついてるんだ。
それも母親のお腹にいるときから。
 
俺たちの種族は本当に変わってて、だから、妊娠中の母親たちも精霊の力を借りないと死産や流産が多い。
多分種族全体として弱まっているんだと思う。
あと何百年かしたら全滅してしまうかもしれないぐらい。
もうきっと限界なんだろう。
一族から離れて他の人間と結婚する者も最近増えてきたぐらい。
 
それでも女の子は妊娠すると帰ってくる。
 
精霊のいる場所。聖域。
その中のもっとも神聖な場所で妊婦たちは子どもを産む準備をする。
そこは穢してはいけない場所。
生まれてくる子供達を精霊たちが加護する場所。
 
で・・・・そんな場所で、ごくごくたまに、数年から数十年に一回、うっかり穢れを持ち込んでしまう妊婦がいる。
俺の母親が10年ぶりにやらかした人で、聖域内で出産以外の時に血を流してしまった。
もちろん母親の守護精霊も、生まれる前のおれについている守護精霊もついていたのに。
ちょっとやそっとじゃ普通の人は怪我しない状況。
普通なら血なんか流さない。
その場所でうっかり海から聖域に入り込んできた魚を助けようとして、その魚の怪我に触れてしまったらしい。
魚が暴れて、誰も止められなかった。
母親の指先から血が一滴流れて、そして・・・・・・聖域を穢した罰が当たった。
 
呪いという形で。
俺の母親、俺の母親の守護精霊だけでなく、腹の中にいた俺と俺の守護精霊の4人が呪いをうけた。
その中でも何故か俺にかかった呪いがものすごく厳しいもので・・・
母親が怪我したタイミングでひょっとしたら俺が母親の腹を蹴ったのかもしれない。
とにかく俺と俺の守護精霊の受けた呪いは、母親と母親の守護精霊の呪いなんて越えてた。
 
でも、そんな呪いにも負けず、俺は成長して、そして成人する日が来た。
母親は俺が成人する前に亡くなってた。
 
で、俺の成人儀礼の日。
とんでもないことが起こるんだ。
本来なら俺の母親から俺に伝えられていないといけないあることが伝えられていなかった。
しかも、呪いのせいで他の人との交流が極端に少なかった俺は、そのあることが知らされていなくて、成人儀礼を失敗してしまう。
 
本当は俺の成人儀礼が正しく行われれば、俺の呪いって解けるはずだったんだ。
それが成人儀礼を失敗したせいで、さらに呪い追加。
 
おまけにその呪いのせいで俺は一族の国にいられなくなって、国外追放。
それが二年前。
まぁ、一応精霊つきってことで、最初は精霊協会に預けられてて、そのときに冒険者も一人護衛についてくれたんだぜ。
俺、だから、二年前に精霊協会のライセンス取ってるんだ。
でも、あまりにも閉鎖的な国にいたから、世間ずれしてて、それで半年間はその精霊協会の護衛のヒトと旅して、そのあとはずっと一人旅をしてたってわけ。
 
で、俺は呪いを解いて国に帰りたいんだけど、その呪いを解くためにはキーになるあるものが必要で、それを見つける能力がある人を探しに精霊協会にきたんだ。
ここならいろんなヒトがいるはずだから。
 
 
 
話し終わってからもしばらくレグは考え込んでいた。
 
「で、その戻るために必要な何かって?」
 
「ん・・・ごめん。それは言っちゃいけない気がする。もうちょっと待って。」
 
「わかった。今聞いた内容でもかなり他人に話しちゃいけない内容が含まれていた気がするし、今はここまでで十分だよ。ありがとう。
ところで、さっき女将が食事の準備ができましたって声かけてたの気づいてたか?」
 
「え?ほんとに!俺全然気づかなかった。うわ、もうこんな時間なんだ。食事行こ!」
 
話に夢中になっていたけど、時間に気づいたら途端にお腹が空いてきた。
久々の女将の食事はとっても美味しかった。
 
 
 
 
 
その日の夢で久々に災渦の姿を見た。
何か俺に伝えたそうで、だけど、俺に話せなくて、何も伝えることが出来なくて辛そうだった。
俺が不甲斐ないから災渦に迷惑かけてるんだな・・・・
そう思うと、なんとしても見つけないという思いが強くなる。
俺の探しているもの
災渦の「本当の名前」を。
 

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