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精霊伝説:波紋を斬る者 ヴェル、災渦の日記 (+カヤ・ボーフォートのセルフォリーフの日記、アンジェリカ・ラッセルの偽島探検記+イシュケ、翠祀)
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久々に宿に戻ってきた。
俺は海側の部屋に部屋を移動した。
いない間に女将が部屋の清掃をしてくれていて、どの部屋も同じぐらいに片付けてくれていたので。
真下は女将の部屋らしく、少し気を遣わないといけないが、海の香りが今は恋しかった。
 
白い窓をあけると広がる青い海。
夜風が気持ちよくて、少し湿った潮風が心地よい。
 
前回の仕事で心身ともに疲れた俺たちは、明日一日ゆっくり休んで、明後日から新しい仕事を請けることにした。
レグはこの休みをどうするんだろう?
俺はもう決めているけど・・・。
 
 
 
よく晴れた早朝。まだ日が昇ってすぐ。
俺は女将にお弁当を頼んでおいた。
朝は早いから夜のうちに準備をしてって。
用意されていたのは籠にパンや果物、豆料理、それにいっぱいの野菜。
 
「もう出かけはるんですか?お早いお出かけどすな」
「うん、人がいないうちに海に行きたいんだ。これ陽が当たらない場所なら海辺でも大丈夫だよね?」
「お料理は全部火を通してありますけど、この赤い野菜と果物は冷やしておく方がええですよ。氷袋でもいれときましょか?」
「お願い。」
 
本当は氷ぐらい災渦に頼めば維持できるけど、今日は災渦にできるだけ無駄な力を使わないでもらいたいから。
 
「じゃあ、行ってくるね。」
「あ、ヴェルさん」
「ん?」
「レグさんには言うてはりますの?どちらに行かはるんか。」
 
レグに?
 
「言ってないけど、言っておく方がいいのかな?」
「そりゃ、お仲間だったら言うておくほうがええんとちゃいます?」
 
そういうものなのかな?
俺はずっと一人だったし、そういえばレグと知り合ってから、レグが精霊協会に一人で出かけることはあっても、俺が一人で出かけるってなかったな。
レグは出かけるとき・・・・・そういえば、俺は事前にレグがどこに行くのか大体知ってたな・・・。
仲間ってそういうものか・・・
 
「んっと・・・・野営で睡眠時間短かったし、起こすのもかわいそうなんだよね。伝言頼める?」
「もちろんええですよ。」
「この先の海岸沿いに洞窟あるよね。あそこのどこかに荷物を隠して海にずっといる予定なんだ。
ただ、俺は海得意だから、多分レグが思うより遠くのほうまで泳いで行くから探せないと思うんだよね。夕方には帰るからって言っといてくれる?」
「それ、危なないですか?」
「ん・・・俺の一族って・・・・・、秘密だよ。絶対に秘密だけど・・・・水の精霊との契約があって溺れることってまずないんだ。むしろレグがついてきたらその方が危険。」
「・・・・・ヴェルさん、うちのこと、えらい信頼してません?それほんとは話したらあかんことちゃいますの?」
「うん。信頼してる!だから、ぜーーーったい、話さないでね。あ、どうしようもなかったらレグには言ってもいいよ。でも、言わずにごまかせるなら、ごまかして欲しいけど・・・・。じゃあ、行ってきます!」
 
 
女将は驚いていたけど、実はこのぐらい大した秘密じゃない。
本当の秘密を隠すために、小さな秘密を大変な秘密のように隠して隠して時々洩らす。
もっともっと大きな秘密のためなら、左腕の災渦が精霊であることだって話したってかまわない。
でも、災渦のことは拷問されて、どうしようもなくなるまで俺からは口にしない。
これが俺が口にすることを許される最大の秘密だから。
 
そして、もっともっと大きな秘密は死んでも言わない。
たった一人の許される相手以外には話せないこと。
それに比べたら水の精霊との契約なんて軽い秘密だ。
 
 
 
 
まだ誰も居ない海辺を走って、手早く服を脱いで袋に入れる。
袋とバスケットを手に持って、海の中を腰まで浸かりながら少し歩く。
砂浜から外れた岩場の奥に海側からしか入れない小さな洞窟がある。
この袋と籠ぐらいなら注意すれば水に浸からないように出来るけど、俺自身は時折頭まで波を被る。
 
「災渦」
 
ここだけは災渦の力を少し借りる。
おかげで俺は荷物を濡らさずに洞窟に入ることができた。
ところどころから日が射していて明るい洞窟の中は少し広くて、奥が上を向いている。
昔は波が奥まで入って来て削られたんだと思うが、数年前に地震があって今では満潮時でも潮が入ってこないようになっている。
この場所を俺は水都を追い出された二年前に教えてもらった。
あれからもう二年になるんだな。
 
 
荷物をしっかりと崩れない場所に置いて、俺は災渦と鍵だけを身につけて海の中に入っていった。
こんな場所まで泳ぎに来るやつはいないし、いたとしても俺についてこれるような奴なら一族に近い種族だろう。
俺が全裸であることを気にするはずが無い。
目指すは海の底。
海岸から離れて遠く遠くはるか先へ。
やがて鍵が光る。
世界が変わる。
俺は聖域へと到達したことを知った。
 
 
 
「ふっ。はぁ」
 
そこは青白い光の射す洞の中。
不思議な色をした水の中に俺は漂っていた。
この場所にまだ上がることは出来ないが、今日の目的はこの水に浸かることだから。
水に浸かりながら声が聞こえないかとじっと待つ。
二年前から俺は俺の守護濤霊と意思疎通ができなくなった。
この聖なる洞の中でさえ。
 
この水に浸かっているだけで、あいつの力は増すはず。
それなのにあいつの声は俺には届かない。
俺の声は届いているはずで、いつも俺は助けてもらえるのに、俺はあいつを助けてやれない。
求めているのはたった一つ。
あいつの本当の名前。
それだけなのに。
 
先日の野営のとき、俺は突然眠くなった。
俺のバイタルはあいつが完全に把握しているはずだから、普通ならそんなことは無いはずなのに。
あいつが俺を眠らせたかったのか、それともあいつの力が弱まったのか。
あの日は確かにひどい日であいつの力を借りっぱなしだった。
だから、力が弱まっていてもおかしくない。
今後のことも考えて、俺は今日ここに来た。
左手のもやもやしたものが少し濃くなってやがて篭手のような形を形作る。
こんな姿も取れないぐらい力が弱まっていたことにもっと早く気づいてやればよかった。
 
 
 
戻ってきた時にはもう昼過ぎ。
遅めの昼食を食べて・・・さてどうしよう。
今から宿に戻っても夕食まではまだまだ時間がある。
市場に行ってみてもいいが、遅い昼食や逆に早めの夕食の準備で肉を焼く臭いが充満している時間帯だ。
あまり災渦に余計な手間もかけさせたくないし・・・・
普通の人間っぽく海で遊んでみるか・・・
 
 
 
 
夕方宿に帰る時は気持ちよく疲れていた。
これならきっとよく眠れるはず。
と思ったのもつかの間、俺は自分の失敗に気づいた。
周囲から夕食のにおいがしてくる。
うぅ・・・魚が切られるときの声って好きじゃない。
人間には聞こえないみたいだけど、俺にはそこらじゅうから悲鳴が聞こえる。
少し早足で角を曲がる。
 
「うわっ!」
「失礼!・・・ヴェルか。」
「あれ?レグ」
 
角を曲がったら誰かにぶつかったと思ったらレグだった。
草の匂いがする。例の香り袋かな?
なんかちょっとほっとする。
 
「海はどうだった?」
「うん。超楽しかった!俺やっぱり海が好きだ!」
「そうか・・」
「レグはどこ行ってたんだ?」
「いや、ちょっと・・・・それより次の依頼のことなんだが・・」
 
あれ?なんかちょっと照れてる?何があったんだ?
気になるけど、依頼の話もちゃんと聞かないと。
明日は宝石ハンターか・・・ま、相手が一人ならこの前みたいにはならないだろう。
 
 
宿に帰って夕食を食べながら、レグにどこに行ってきたのか聞いてみたけど、精霊協会と笛のちょっとした練習って。
そこだけだったのかな?
少し気になったけど、俺は疲れていたから少し早めに休むことにした。
 
 
 
 
 
 
    ようやく寝てくれた。
    それに聖域に連れて行ってもらえたのは予想外だったが、おかげで力は満ちている。
    禁忌とされていないことなら、多少力を加えれば可能だろう。
    もちろんやることなど決まっている。
    回廊を通って夢の中へ・・・・
    
    夢の中は今日も銀色の髪の人魚。
    私の大事な真珠姫。
    しかし、今日はこの夢を見ている男に気づいてもらわなければ。
    夢へと干渉する。
    まずは笛を吹いてもらうしかあるまい。
    人魚が懇願する。
    男は夢の中で笛に手を伸ばす。
    笛を奏で始める。
    この音が精霊に力を貸していることに気づいているだろうか?
    これならばこの男に声を届けられる。
    
    「其処の男、妾の声が聞こえるか?」
    
    男は笛を放し、何やらきょろきょろしているが、笛の音を途絶えさせるのは困る。
    また夢に干渉する。
    人魚が懇願し、男は再び奏で始める。
    
    「其処の男、笛を吹き続けながら妾の声に耳を傾けよ。決して笛を止めてはならぬ。」
    
    怪訝そうな顔をしつつ男は笛を続ける。
    笛の力を借りて私はようやく男の夢の中に自分の場を作りあげた。
    
    「もう笛を止めてもよいぞよ。こちらを振り向くが良い。」
    
    男の目には私の像が写っているはずだ。
    海よりも淡い水色の長い髪
    湖を思わせるような翡翠色の瞳
    男でも女でもないこの濤霊の私の姿が。
    
    「今日は其方に会うのみじゃ。だが、明日からは其方の力を貸してもらいたい。」
    「俺の夢・・・だよな。夢に入ってくるなんて、君はいったい何者なんだ?」
    「妾は名乗る名を持たぬ。今日は声を届けるだけで妾にも精一杯。明日また会おう。」
    
    もう場は作り上げた。
    明日になればあの男の夢に入り込むのはさほど難しいことではないだろう。
 
 
 

 
 
 
朝起きて一番に窓を開ける。
海が見える。
最初から海側の部屋にすればよかったと思った。
服を着替えようとして気づく。
 
「災渦?こんなところに緑の宝玉つけたのか?」
 
寝る時も話さない左手の災渦。
今は篭手の形を取っているが、その篭手の手首をガードしている場所に小さな緑色の玉石が光っていた。

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