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精霊伝説:波紋を斬る者 ヴェル、災渦の日記 (+カヤ・ボーフォートのセルフォリーフの日記、アンジェリカ・ラッセルの偽島探検記+イシュケ、翠祀)
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俺たちはアルベルトという人間の隊商を守っていた。
アルベルトは明るい奴だが、人間だ。
肉を食う奴は何故こんな臭いがするんだろう。
それに今日の昼間助けたフーゴという奴。
こいつは文句なしの人間だ。
こいつの荷物を取り返す?
俺一人だったら間違いなく、「冗談じゃねぇ!契約以上の仕事をする気はねぇよ!」と、突き放していたところだ。
だが・・・・こうやって人と関わりあうことを避けているせいで、俺は何か大事なことを見失っているかもしれない。
それがここ2年の放浪で俺が何も得られなかったことに対する反省だ。
今の俺にはレグがいる。
レグはもちろんフーゴの荷物を取り返すことをあっさりと受け入れていた。
その姿勢が俺に欠けているものなのかもしれない。
だから、ここは我慢だ・・・・。
 
 
 
 
その我慢が尽きたのは野営の酒盛りだった。
肉を焼く臭いが充満し、ほとんどの人間が肉にかぶりついている。
アルコール混じりの肉の臭いのする吐息。
死んだ動物を焼く臭い。
断末魔の気配。
俺は周囲を見張ってくる振りをして隊商から離れると森の中で一人吐いた。吐き続けた。
 
左手の災渦が微かに光る。
俺の身体に何かあった時に必ず干渉してくる災渦。
俺の守護濤霊。
胃液を吐いて荒れた喉と食道の痛みが引く。
胃の痛みも。
そして、俺の周りの空気が浄化される。
わかる。
近くに川がある。
水の精霊が俺を受け入れて、俺の心を清めてくれる。
 
 
だいじょうぶ?
だいじょうぶ?
からだいたい?
こころいたい?
きれいにしよ。
きれいにしてあげる。
 
もう少しここにいよう。
精霊が教えてくれる。
今夜の襲撃はないと。
 
 
 
離れていたのはほんの半刻。
隊商に戻るぎりぎりまで災渦は俺の周りに結界を張ってくれていた。
結界も少しずつ解いて俺の身体を慣らしてくれた。
宴会はどうやら終わったらしい。
こんなゴブリンだらけの場所でずっと宴会をする方がおかしい。
それでも臭いと死の気配はまだ残っている。
宴会のそばで護衛をしていたレグは不本意な顔をしている。
こいつはやっぱり「ヒト」だから。
 
「終わったのか?」
「終わった・・・アルベルトもフーゴもお休みだ。俺たちは順番に寝ずの番だ。もちろん召喚精霊も見張りに勘定してもいい。」
 
寝てくれたか。
俺にとってはその方が都合がいい。
とは言っても隊商の下っ端の人たちはまだまだ働いているようだが・・・・
 
「ヴェルは食事を取ったのか?」
 
ひたすら吐いてましたとも言えないな。
それに災渦が俺の身体を調整してくれている。
今日は食わなくてもなんら支障ない。
 
「あぁ、ここだと食べる気になれなかったから、あっちの川のそばで食ってきたよ。レグには悪いことしたな。」
「そうか。じゃあ、悪いけど俺もちょっと食事にするよ」
 
 
レグが居なくなると途端に空気が悪くなる。
臭い、気配、片付けている皿の数々、明日の朝食の下ごしらえもしているようだ。
何か別なことを考えて気を紛らわせよう。
そういえば、今日の戦闘でレグは水の精霊を使役していたように見えた。
精霊使役出来る奴が精霊協会に多いのは知っていたが・・・・
 
だめだ。
臭いがきつすぎる。
だが、ここで勤めを放棄するわけにも行かない。
 
「災渦」
 
小さな声で呼びかけると、少しだけ吐き気がおさまった。
我慢だ。もう少しの我慢。
 
 
 
しばらくしてレグが戻ってきた。
俺の顔を見ると 「ほらっ」 と言って何かを放り投げてきた。
受け取ると少し空気が和らぐ。
 
「なんだこれ?」
「以前、調香師にもらったんだ。気分が悪い時に使うと良いらしい。」
 
香り袋?
草の匂い。麦の匂い。大地の匂い。
これにも微かに精霊の気配がする。
俺は訊いてみた。
 
「レグ?」
「なんだ?」
「ひょっとしてレグ・・・・水霊と話せるのか?」
「いや、俺は話せない。俺が笛の音を奏で精霊はそれにそって力を貸してくれるというもので、話すとは少し違うんだ。」
 
そうだった。
レグは笛を介して彼らに働きかけるんだったな。
レグがお願いして、水霊が叶えるようなものか。
それはそれですごいけど、俺が望んでいる力とは少し違う。
 
「そっか。精霊協会には精霊と話せる人もいると聞いていたから、レグがそうなのかと思ったよ。」
「ブラクエイにそういう人がいるって話は聞いた覚えがある・・・が、それより少し休め。顔色が悪いぞ。」
「わかった。俺の番になったら起こしてくれ。」
 
お言葉に甘えて少し休もう。
レグにもらった香り袋をかいでみる。
これなら災渦の力も借りれば、ここでも休めるかもしれない。
 
気が張っていたのか横になると眠くなる。
焚き火の灯りに照らされたレグの横顔も少し疲れていそうだ。
この場所は俺たちにはあわない。
 
「なぁ」
 
レグがこっちを向くが、呼びかけたものの特に話すことがあるわけじゃない。
ただ、この空気の中で一人いる辛さはさっき思い知ったから、誰かと喋っている方が楽だろうと思っただけだ。
だから、俺は気になっていたことを聞いてみた。
 
「なんでレグは精霊協会に来たんだ?」
「俺が精霊協会に来た理由か・・・」
 
レグは少しの間黙っていた。
聞いちゃいけないことを聞いたかもしれない。
 
「・・・長くなるが良いか?」
「うん。」
 
レグは訥々と話し始めた。
生まれ故郷の祭りの儀礼。
踊り手と奏で手か・・・・確かにレグの笛はすごい。
神に奉納する舞と音。
俺たちにはない考え方だけど、素朴で神聖な祭りはレグの持ってる空気にあってる。
きっと、俺が見てもすばらしい祭りなんだろうな。
幼馴染・・・そういえば俺には幼馴染の記憶がない。
そう思ったとき急に眠くなった。
レグは話していたけど、俺は起きていられなかった。
 
 
 
 
しばらくして、俺は起こされた。
これは・・・・レグの召喚した精霊だ。
今日の戦闘でもよく戦ってくれた。
精霊が消えて行く。
消える直前に俺を起こしてくれたらしい。
ここから朝までが俺の番か。
レグの話の途中で寝てしまったようだ。
悪いことをした。
長い話でもよいと言ったのに。
 
レグが寝返りをうった。
何か夢を見ているのか?
俺は起こさないようにレグの毛布をそっと左手で直した。
 
 
 
 
   私はその男の夢に触れた。
   夢に出てくるのは銀色の髪の人魚。
   私のよく知る愛しい・・・
   この男、もしやあのときの?
   あの笛の音にも少し聞きおぼえがあった。
   この男をこのままヴェルのそばに置いていいんだろうか?
   だが、この男がいなければヴェルは協会にいられないだろう。
   そう、大切なことはあの銀色の人魚を守ること。
   それだけに専念しよう。
   それに、この男の精霊を呼ぶ力を利用すれば・・・・
 
 
 
 
月が綺麗な夜だった。
俺は月を見上げた。
陸から見ても海から見ても月は月。
そこにあって俺たちを見守ってくれる。
 
太陽が昇る直前に顔を洗いに行こう。
そして・・・・明日は何か布を口に巻いておこう。
聞かれたらゴブリンの血がくさいからといえば誰も疑問に思うまい。
宿に戻ったらレグが何か言うかもしれないが、俺が吐いたことはいつ言ったものだろうな。
ひょっとしたら治癒の力を持つレグには既にばれているのかもしれないが・・・
まずは明日ゴブリンのリーダーを倒し、フーゴの荷物を取り戻す。
そのことに専念しよう。
その前にレグに謝らないとな。
俺はそう思った。

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