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精霊伝説:波紋を斬る者 ヴェル、災渦の日記 (+カヤ・ボーフォートのセルフォリーフの日記、アンジェリカ・ラッセルの偽島探検記+イシュケ、翠祀)
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終わった。
精霊協会での初戦闘は比較的あっさり終わったといってもいいだろう。
幸い相手は合成体で思いっきり打ち砕くこともできた。
中に入っていた精霊達を傷つけてなければいいが・・・・。
 
俺の傷はレグが戦闘中も何度か治してくれた。
笛の音が俺の耳に届いたと同時に傷がみるみる塞がっていくのは驚きだ。
「レグ、さんきゅ。助かった。」
精霊兵を眺めていたレグがこちらを振り返って、目をパチパチしたかとおもうと
「こちらこそ。ヴェル、ありがとう。俺達初めてにしては良いコンビネーションだったな。」
と返してきた。
戦闘後にお礼を言いあうってのもいいものだな。
 
「さすがに、協会所属の冒険者さんが相手だと、この子達ではまだまだ歯が立たないわね。
でも、この子達にはいい経験になったわ。本当にありがとう。
これが約束の報酬よ。またよかったら、この子達の訓練相手になってあげてね。」
 
そういいながら、かすかに精霊の気配を漂わせたヘルミーネという人間から不思議な石をもらう。
何か・・・力を感じる。
精霊の欠片?
俺の左手で災渦が震えている。
何だろう。ひょっとして・・・・
 
隣を見るとレグも精霊石の欠片をじっとみていた。
 
 
俺たちはそれぞれ宿に戻った。
あっさり終わったとは言え、少しは汗もかいているし、シャワーでも浴びたい。
刀をおいて、内ポケットから精霊石の欠片を取り出し、災渦に近づける。
「災渦、これ近づけて大丈夫か?」
災渦は特に避けるような気配もない。水霊の欠片ではないのかもしれないが、害になる火霊や焔霊の欠片ではないようだ。
「災渦・・・・いや、本当の名前は違うんだよな。」
俺は少し考えていくつかの名前をあげる。
「水破(すいは)、藍華(らんか)、濫揺(らんよう)、蒼紫(そうし)、氷夢(ひょうむ)・・」
相変わらず、災渦はピクリともしない。
 
俺はあきらめて精霊石の欠片をベッドの上に置き、服を脱いでシャワーを浴びながら考えた。
でたらめに考えても当たるはずがない。それで当たるならこの2年の間に当たっていたっておかしくない。
本当の名前を突き止めることがこんなに難しいとは。
災渦と話せる精霊を見つけないと。
見つけて名前を聞かないと・・・・・
 
 
軽くシャワーを浴びてから、もう一度精霊石の欠片を見る。
これは何かと交換出来るらしいが・・・・・交換か・・・
俺は服を着ると精霊石の欠片を持ってレグの部屋を訪ねた。
 
部屋の中にいそうな気配がしたので、軽くノックしてみる。
「どうぞ」
俺はドアを開けるとレグの部屋に入った。
レグはベッドの上で地図を広げていた。
「地図?」
「俺は来たばかりでここを全然知らないから、重要な所だけでも頭に入れておきたいんだ。」
俺もここに来るのは2年ぶりなんだが、この町のことはある人が細々と教えてくれたので、頭の中に入っている。
レグは俺がこの宿に引っ張ってきちゃったから、町のことはあまり知らないのかもしれないな。
そんなことを考えながら俺はレグの前に精霊石の欠片をぽんっと置いた。
「一人が交換して持っている方がいいと思うんだ。」
これだけで通じたらしい。
欠片と交換できるものは受け渡しできるかもわからない。
それなら一人が交換してまとまった量をもっている方がいいんじゃないかと思ったんだ。
それに・・・・俺はあまり人間のいる場所には行きたくない。
「そうか、確かにな。」
話のわかる相方って言うのはいいもんだ。
 
レグに精霊石の欠片を託して俺は部屋に戻ろうとした。
「あ、ヴェル、ちょっと待ってくれ。次の依頼はどうする?依頼は昨日と全く同じだな。今日受けた精霊兵研究所か、隊商の護衛だ。」
今日は刀慣らしだったから相手もそんなに強くなかったし、俺たちの連携もそれほど悪くない。
となるともう一つに行くのが普通だろう。
しかし、隊商護衛か・・・・人間がいっぱいいる場所だよな・・・
「もう一回同じってのもな・・・この欠片をもう一回集めるのも悪くないけど、護衛も大事な務めだしな・・隊商護衛にするか」
言葉がするっと出てこない。
隊商護衛がいいと頭の中では思いつつ、野営などを考えるとぞっとする。
魚や肉を食べる人間どもの食事を見るだけで、食欲減衰どころか吐きそうだ。
「どうした?酷く憂鬱そうに見えるが。気乗りしないなら今日と同じでも良いんだぜ。」
「俺、人間が多いところは苦手なんだ。それに、どうせいつかはやらないといけないんだし。」
レグは怪訝そうな顔をしている。
まぁそうだよな。
「人間が多い所は苦手と言っても、なんでわざわざ難関の試験を受けてまで精霊協会に入ったんだ?そこまでする理由があるのか?」
ごもっともな質問だ。
だけど、俺のことをどこまで話していいのかまだわからない。
「ん・・・今はまだ言いたくない。ダメか?俺達まだお互いのことを知らなすぎる。レグは「ヒト」だから信じていいと思ってるんだけど、親切な「ヒト」でも理解してくれなかったら病気扱いされちゃいそうだからさ。」
少しだけレグは考え込んでいるようだ。
よくよく考えたら、俺はお前のこと信頼していない、って言っているも同然だな。
でも、それが今の俺の本音だ。
「分かった、それなら言える時になったら言ってくれれば良いさ。気にするな、俺もヴェルにまだ言えないことがあるしな。お互い様さ。」
お互い様か。
お互い様・・・まぁ、パーティだからって何もかも包み隠さず話せるって訳でもないはずだしな。
「さて、明日のことが決まったところで。少し早いけど、そろそろ夕飯食べに行こう。今日は夜パーティで1階が貸し切られるみたいだから早めらしい。」
女将は俺との約束を守ってくれている。
俺たちの食事の時間と1階のレストランの開放時間は厳密にわけてくれている。
この宿のパーティならそれほど不快な思いはしないはずだが、やはり人間が来るのは避けられないだろうな・・・
 
 
その日の夕食は女将がパーティの料理の準備をしていたので、俺とレグと二人で食べることになった。
お互い何かを腹に抱えたまま。
俺はろくに喋れなかった。
レグは何か話していたが、俺のところで何度も会話が途切れるうちにあきらめて食べることに専念したようだ。
昨日とは違って重い空気の中で俺たちは黙々と食事を済ませた。
 
部屋に戻っても気が晴れない。
災渦も何も答えてくれそうにない。
俺はもう一度シャワーを浴びることにした。
今度は風呂にも水をはって、ゆっくり浸かる。
水風呂。
この宿で水を浴びていると水霊たちがやってくる。
俺の指ぐらいの小さな小さな精霊たちが俺の周りで飛び跳ねて笑っている。
この宿の清浄さが精霊を呼ぶ。
 
どうしたの?
げんきないの?
おどろう?
うたおう!
げんきだして
げんきだして
げんきだして
 
小さな水霊たちが俺の髪であそんでみたり、踊ってみたり、小さな声で俺にだけ聞こえるように歌ってくれる。
俺は頭も水の中に沈めて、水の中から灯りを眺める。
水霊たちがわらっている。俺も少し笑った。
 
 
風呂から出てタオルを腰に巻いて部屋に戻る。
ほとんどの水霊は帰ったが、まだ少し湿っている髪で遊んでいる水霊もいる。
それも俺がネックレスを首にかけるまで。
この鍵には古の水の力が溢れている。小さな水霊たちは畏れながら帰って行った。
残ったのは俺と物言わぬ靄のような災渦だけ。
 
ノックの音がした。
「ヴェル、今いいか?」
「どうぞ。」
女将が下でパーティのホステスを務めている以上、今ここに来るのは一人しか居ない。
俺がドアをあけると片手に料理片手に酒?
「ああ、風呂上がりだったか。ん?珍しいネックレスだと思ったが、それは鍵・・・か?」
「ん?これは俺が家に帰る時に必要なある場所を通るための鍵だよ。大事なものだから肌身離さずもってるんだ」
そういえば、タオル一枚にネックレスだけだな。俺。
服でも着るか。
「へぇ・・・大事な鍵なんだな。」
レグを部屋に入れると俺はガウンを上からひっかけた。
手に持っている物を見れば何をしにきたかはなんとなくわかる。
「それはそうと、酒とつまみを持ってきたんだ。ヴェルは飲めるか?」
「まぁまぁ。呑めないわけじゃないけど、うわばみってほどじゃないよ。」
レグの持ってきた酒は俺でも飲めそうな酒だった。
つまみも豆だ。これぐらいなら食える。
レグが作ったのか?
だとしたら、野営の食事もちょっとは期待できるかもな。
グラスに酒をついでもらって、軽く口をつける。
少し苦いが、あとにかすかにフルーティな感じが残る。
うまい。
 
「ヴェルの始めに出した技凄かったな、使い慣れてないようには全然見えなかった。あれどうやってるんだ?」
「あぁ、これ?」
俺は氷散刀を抜く。
思念を凝らすと刀がそのまま礫にならずに凍る。
「俺の一族は子供の頃から水を扱うことに長けていてな、この刃はもともと水なんだ。それをこの形にしているだけ。凍らせるのはこっちの(そういってもやもやした篭手のような物を見せる)災渦の力だよ。これは一種の魔具なんだ。生まれつきのところもあるから他の人には伝授できないんだけど・・・。
レグの笛もすごいじゃん。あれこそどうやってるのさ。」
笛の音色で回復するなんて、まったく何がどうなっているんだか。
「これか?」
レグも笛を取り出した。
「俺の家は代々、祭りの時や儀式の時に女神様に音楽を奉納する神官の家でな。その所為か、演奏で精霊に働きかけることが出来るんだ。で、精霊に働きかけて神聖術・・・これは神官が使う術なんだが、を強化しているんだ。
回復術も攻撃術も、神聖術の治療術や力をぶつける術を精霊に働きかけて強化してる。
精霊に働きかける演奏は人によって違うんだが、俺は笛だな。」
精霊?
そういえばあの時少しだけ水霊の気配を感じたけど、あれは間違いじゃなかったのか。
 
折角出したのだし、気分も良いからとレグが笛を吹き始めた。
素朴な音色。
あぁ、なるほど。
この素朴な音は精霊にとっては心地よい音だ。
さっきの水霊たちが残っていたら、喜んで踊ったり、歌ったりしたんだろうな。
俺は水霊たちの歌を思い出して、そっと口ずさんだ。
 
笛の音と歌を破ったのは遠慮がちに階段をあがってきた女将さんのノック
「レグさん、ヴェルさん、ちょっとえぇかしら。下のレストランのお客さんがその笛の曲を聞きたいって言うてはるんやけど」
下のレストランのお客・・・か。
レグはどうやら行くらしい。
ここでお開きだな。
「俺は酔っているし、もう寝るよ」
「じゃあ、行ってくる。おやすみ、ヴェル。」
 
 
 
  ヴェルは酔っていて、すぐ寝てしまった。
  だから、気づいていなかった。
  災渦がいつもより脈動していたことに。
  私はそのことをあとで知った。
 
 
 
酔って寝た俺はまた夢を見た。
人魚の夢だ。
今度は俺が人魚になっている夢
自分のそばに長い青い髪の精霊がいる。
あぁ、これはいつもいつも俺を守ってくれている守護濤霊だ。
「災渦」
呼びかけると、災渦は哀しそうな顔をして消えてしまった。
辺りは暗く何も見えない。
俺はあいつの本当の名前を呼んでやれない・・・・。
 
 
朝起きてしっかりとサングラスをかける。
口の周りに布を巻いて口と鼻を隠すか悩んだが、さすがに依頼主に対してどうなんだろう。
俺は悩んで、一泊分の荷物を持ち、サングラスだけをかけて出かけた。

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