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精霊伝説:波紋を斬る者 ヴェル、災渦の日記 (+カヤ・ボーフォートのセルフォリーフの日記、アンジェリカ・ラッセルの偽島探検記+イシュケ、翠祀)
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『20日目の日記

しばらく、日記をお休みしてしまいました。

その間に2回の大きな戦闘がありました。

1回はレディボーンズっていうちょっと変わった髪の小母さんと、3人の兵隊さんの4人パーティでした。

兵隊さんはレディボーンズさんにこき使われているみたいで、ちょっと可哀相でした。


それから、砂巨人さんに会いに行くか、巨大髑髏に会いに行くかを検討して、先に巨大髑髏さんに会いに行くことにしました。

なんだかよくわからないけど、大きな戦闘は早く済ませてしまう方が、強くなれるみたいです。

あとから大きな戦闘をする時は少人数じゃないとだめなんだって。

だから、巨大髑髏さんには3人で、砂巨人さんにはあとから2人組で会いに行くことにしました。


大きな髑髏さんはがしゃ髑髏さんって言って、サニーっていう人が召喚したみたいです。

がしゃ髑髏さんは魔法と闇の力がうんと強い人なら召喚できるんだって。



召喚出来る人じゃなくて、幽愁暗恨っていう技能を憶えていると離脱する時に呼べるみたい。

そういえばサニーさんはがしゃ髑髏さんを置いて立ち去っちゃったから、サニーさんも強い魔法使いさんなのかな?

一緒にいた女の子も魔法使いさんみたいだったし・・・・

二人は師匠を探しているみたいだけど、師匠ってどんな人なんだろう?

やっぱり魔法使いさんなのかな?


師匠って呼ばれる魔法使いさんというと、白い長いお髭で、立派な杖を持っている御爺さんなのかしら?

足止めされちゃったけど、いつか、アンジェリカも有名な魔法使いさんに会えるのかな?

そしたら、魔法で一回だけ大人にして欲しいな。

大人になったら、フローラお姉ちゃんみたいに知的な感じの女の人になれないかな?

ティアリスお姉ちゃんみたいにかっこいい女の人にも憧れちゃう。

お母さんみたいにおっちょこちょいだと困っちゃうけど、アディさんみたいに素敵な人ならそれもいいかも。

魔法使いの大先生にいつかあえますように!』



少女はまだ日記を書いているが、その日記をのぞきこんでいた緋魅の顔は少しこわばっていた。
以前の島を知っている緋魅は、リトルウィザードの探すマスターがどんな人物なのかを知っていた。


少女の夢は壊さない方がいい・・・・


そう思って、そっと部屋を出た。


『がしゃ髑髏の時はフローラお姉ちゃんは重要な作戦をするために別のPTに応援に行ってました。

かわりに夕暮れ姫さんとはじめて同じPTになりました。

姫姉さまはアンジェリカと同じ日に投剣を憶えた人です。

タイプが似てるから、戦闘の時はよく参考にさせてもらってます。

ただ、これから先はなかなか一緒にPTを組めないかもしれない。

がしゃ髑髏さんの時に組めてよかったです。


それから、最近アンジェリカが戦う時はいつもケサちゃんと一緒です。

ケサちゃんは鞭も使えるし、召喚も出来るし、とっても強いです。

アンジェリカはときどき自分の戦闘を振り返っているけど、やっぱり緋魅の分をあわせても、ケサちゃんに敵わない時がある気がします。

もうちょっと強くなりたいなって思います。


あと、ブラックボール戦のあとで薬品をつくってもらいました。

メルさんっていう方に作ってもらったんだけど、イシリアのことを知っているみたい。

この島でイシリアの話が出来る人にあったのははじめて。

いろいろお話聞いてみようと思います。』


「よし、かーけた!緋ー魅♪・・・・・・・・あれ?緋魅??」


日記を書き上げて振り返った少女が呼んでも、緋魅は現れなかった。


「どこ行っちゃったんだろう??」






そのころ、緋魅は密かにこの島の冒険者たちをチェックしていた。
この島にはいろんな者がやってくる。
少女が慕っているあのアハトという青年も人間ではなくホムンクルスだ。
また、アディと呼ばれるあの女性にしても、理解の範囲を越える・・・・あれは0と1の羅列に過ぎない。
あれが少女の目にどう映っているのか、緋魅には理解できなかった。

だが、彼らはまだ良い。
彼らにはあの少女に危害を加える危険性がないから。

緋魅は注意深く気配を読む。

中には死臭を漂わせる者達もいる・・・
そして、仲間への食欲が抑えきれないという者達もいる。

だが、もっとも警戒しなければいけないのは、そんな気配をまったく漂わせることなく、着実に餓えを募らせている者。
何かを渇望する者は突発的に暴走しやすく非常に危うい。



ほら、そこにもいるではないか。
遺跡外でみんなが市に集まっている。
もうすぐ彼女もここに来るだろう。
付加の訓練をしたいと言っていたから。

そんな多くの人が集まる巨木の下。
枝と枝の間から零れ落ちる月光。
十六夜の月を眺めながら、紫煙に包まれる穏やかそうな男。
月の光の下・・・肌の異様な白さが妙に目を惹く。

誰が見てもわかる。
あれは夜に生きる者。

この島で平和に冒険をしているように見える。
楽しんでいるようにも見える。
だが、穏やかな表情の下に少しずつ少しずつ・・・着実に溜まっている、あの渇き。



緋魅は目を細めて相手を量る。


今は・・・・まだいい。
まだ危険ではない。
だが、あの渇きが限界を超える時に・・・・そのときは彼女に近づけるわけにはいかない。

緋魅はその男の気配を記憶した。



こうして見るとこの島には危険な人物が多い。

彼女は大きなギルドに入ったことで救われている。
だが、・・・・・・そう・・・・この島には本当にいろんな者がいるのだ。
少し前に守っていたあの子が堕ちて消えた元凶もアレが人斬りに会ったからではなかったか?

用心する方が良い。
そして・・・・壁は一つでも多い方がいい。


日記を書き終えた少女が市へとやってくる。
その後ろに漂う3体のブラックボールを緋魅はじっと眺めた。

そう・・・壁はきっと多い方がいいのだろうから。

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