精霊伝説:波紋を斬る者 ヴェル、災渦の日記
(+カヤ・ボーフォートのセルフォリーフの日記、アンジェリカ・ラッセルの偽島探検記+イシュケ、翠祀)
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「レイモンド・・・・アンジェリカ、ちょっと早く来すぎたかな?」
時刻はまだ正午前。
約束の時間まではまだあと20分ぐらいある。
少し寒い遺跡内で真っ白なコートを着こんでモコモコになった少女が一人。
「アンジェリカちゃん」
控えめなそれでもよく通るその声に少女の顔が明るくなる。
「アディさん!」
少女は声のほうに走り・・・・声の主に抱きついた。
肩までの波打つ金髪、ブルーアイ、少し線の細い女性は優しい笑顔で少女を抱きとめた。
アディと呼ばれた女性は少女の頭を撫でると怪訝そうな顔をした。
「アンジェリカちゃん、髪が冷たくなって・・・少し待たせてしまったかしら?」
「ううん、そんなことないよ!アディさんに会えてうれしい!
アディさんが誘ってくれるなんて思ってなかったから、アンジェリカすごくうれしいの!」
「まぁ。そんなに喜んでくれるなんて、うれしいわ。今日は一緒に美味しいチョコレートを作りましょうね。」
「うん!」
仲の良い姉妹?
それとも仲の良い母娘?
この一幕を目撃した人々は子ども特有の歓声に一瞬目を惹かれたが、自分には関係のないことわかると興味を失った。
中には微笑ましさに表情をほころばせる者もいたが、二人が手をつないで歩いて行くのを見送ると、自分達の用事を済ませるためにその場を立ち去った。
だから、二人がどこへ消えたのか知る者はいない。
「アディさん、ここはどこ?」
どこかもわからぬ場所。
相手への信頼が大きいからこそ今まで何も言わずについてきた。
そもそも遺跡内で二人の位置は遠く離れていたはずなのだ。
こんな風にあえるほど近くにいたわけではない。
だが、そんな距離を越えて彼女は少女の元にやってきた。
何かあるのだろうと薄々感じていたのか、特に驚くこともなく、
透明な扉を潜り抜け、機械のようなものに囲まれた通路を抜け、たどり着いたのは金属の壁に囲まれた場所。
この場所に来てようやく少女は彼女に問いかけた。ここはどこかと。
「ここはチョコレートを作れる場所よ。」
そういうと彼女の姿が一瞬ノイズのように歪んだ。
壁面に隠されていたライトが光る。
機械の動作音が甲高く響く。
キーーんという耳障りな音にびくっと震え、一瞬目を閉じた少女が目を開いたとき・・・・
「アンジェリカちゃんはどんなチョコレートが作りたいのかしら?」
そう言って微笑む女性はエプロンをつけてキッチンの前に立っていた。
無機質な金属的な壁は消えて、まるでどこかの家の中にいるような・・・
「ア・・アディさん?」
「びっくりさせてしまったかしら?ここは私の秘密の場所。
普段は人を入れないようにしているのだけど、アンジェリカちゃんが一緒にチョコレートを作りたいって言ってくれたから、他のタグと相談して特別に入れるようにしてもらったの。
ここなら他人の目を気にせずゆっくりチョコレートをつくれるわ。」
そういって差し出された料理の本。
子どもの順応は早い。
特に信頼する相手以外誰もいない場所。
遠慮の必要のない場所で緊張の続く子供などいない。
アンジェリカは手に持っていたウサギのぬいぐるみをそっと置くと微笑む彼女から本を受け取ってチョコレートを選び始めた。
「ね、ね、アディさん、このチョコレートケーキでどうかな?んとね。大きいケーキと小さなケーキを作りたいの。
大きなケーキはギルドのみんなと分けたいんだ。それでね、それとは別で小さなケーキも2個作りたいの。
あ、アディさんはチョコレートいくつ作りたいの?」
「そうね。私は小さなケーキをたくさん作りたいわね。他のタグにもあげたいし。」
「じゃあ、大きなケーキを1つと小さなケーキをたっくさん作ろうね!」
キッチンにはいつのまにか大きなケーキの型が一つと小さなケーキの型が20個ぐらい用意されていた。
卵に小麦粉、上質なチョコレートにココア、新鮮なバター、さらさらの上白糖、etc.etc.・・・
二人は卵を割りいれ泡だて器と格闘し、
粉をふるい、砂糖を少しこぼし、・・・
きゃあきゃあ言いながら、それでも生地を作り上げ、
チョコレート生地を型に流し込んだ。
オーブンからはやがてとてもいい匂い。
どこか甘い幸せな香りを楽しみながら、紅茶を準備。
そして・・・・・
「アディさん!もうそろそろいいと思うの!」
目をきらきらさせて、うれしそうにぴょんぴょん跳ねる少女
ツインテールがふわふわと揺れる。
微笑む女性が巨大なオーブンから取り出されたのは、大きなガトーショコラが一つ。
小さなガトーショコラがたくさん。
「うわぁ!!」
「とっても綺麗に焼けたわね。アンジェリカちゃん、とても頑張っていたから、ケーキもそれに応えてくれたのかしら。」
「アディさんの用意してくれた材料が新鮮だったからだよ!きっと!」
ケーキを型から外して、二人はその中から試食用に作っておいた小さなケーキをお皿に取り分けた。
「わぁ、美味しい!」
「本当ね。チョコレートがぎっしりしているのに、生地が細かくてやわらかくて。
甘いけど、少し控えめな甘さね。アンジェリカちゃんならもう少し甘いケーキにするかと思ったわ。」
「だって、バレンタインのチョコレートは大好きな人にあげるものだって聞いたよ。
アンジェリカのあげたい人は甘いもの苦手っぽいもの。」
「そろそろ教えてもらえないかしら?アンジェリカちゃんが小さなチョコレートをあげる特別な人はどなたなの?」
聞かれて少し少女は頬を赤く染める。
「あのね・・・・・一つはAchtお兄ちゃん。Achtお兄ちゃん、大好きなの!やさしいし、かっこいいし、とっても強いし!
あと一つは・・・・んっと帰る時まで内緒!だって恥ずかしいもん!
それよりアディさんは?
アディさんだってチョコレート一緒に・・ってことは誰かにあげたいんでしょ?ねぇ、アディさんは誰にあげるの?」
「ふふ。そろそろお片づけしましょうか。」
「えぇ、ずるい!」
ふんわりと笑う女性は軽く首をかしげて、答えるつもりはないというように口を閉じて微笑んだ。
ずるい、ずるい、と言っていた少女もやがてあきらめると、二人はキッチンを片付けた。
ケーキを持ち運べるように小分けの箱に詰め、
それを少女が持ち帰る分だけ大きな紙袋に詰め、
またどこかわからな通路を通って・・・
ふと気づくと最初に二人が出会った場所にいた。
「今日はとても楽しかったわ。アンジェリカちゃん来てくれてありがとう。」
「アンジェリカもとっても楽しかったよ!アンジェリカ、アディさん大好きだもの!
そうだ。これ。」
少女が取り出したのは持ち帰るための小さなケーキの一つ。
「あのね。あのね。大好きな人にあげるなら、Achtお兄ちゃんの次にアディさん・・・ううん、TAGさんにあげたいの。
アディさんのこと、とってもとっても大好きなの!
アンジェリカにアディさんを会わせてくれてありがとうっていいたいの。
だから、これを【ic0】さんに」
少女はそういうと目を閉じる。
再び目を開いたとき、目の前にいたのは銀色の髪、額に青い印のある小柄な少女。
「貴女・・・・変わっていますね。」
「そうかな?でも【ic0】さんは象徴なの。うまく説明できないけど、私が感謝したい人たちの象徴。
だから、これ受け取って。」
差し出されるチョコレートがどうなったのか。
二人の少女がどうなったのかは、誰もみていなかった。
ただ、金髪の少女はとてもうれしそうにギルドのメンバーの元に戻ってきたらしい。
いい匂いのする紙袋に何が入っているのかは想像がついた。
だけど、あまりにも少女が幸せそうだから、誰も何も言わなかった。
バレンタインデーまであと少し・・・
(ENo.911 TAGさん 【ic0】さんと【ic7】アディさんをお借りしました)
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