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精霊伝説:波紋を斬る者 ヴェル、災渦の日記 (+カヤ・ボーフォートのセルフォリーフの日記、アンジェリカ・ラッセルの偽島探検記+イシュケ、翠祀)
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「カヤ、貴女に手紙よ。」

そういって微笑みながら手紙を渡してくれたのは、金色の髪にやや褐色の肌、青い瞳の美しいやさしい養母オーレリアだ。
だが・・・・・相変わらず、どこか抜けていらっしゃる。

手紙を受け取るよりも前に私と同じことに気づいたのはアンジェリカだ。

「誰から?」

封筒の色は真っ赤で、ご丁寧に封蝋されている。
蝋の色は黒だ。
差出人の名はない。

「あらあら?誰からかしら?カヤちゃん憶えはないの?」

私に手紙を書いてくる人?
この家印から考えてラッセル家の方々ではない。
ケサちゃんならアンジェリカに手紙を書くだろうし、いつも淡い色の便箋とセットの封筒を使っている。
ピリオーザさんからの手紙はいつも白だ。
旅をしている時に知り合った他の方はアンジェリカに手紙を書くことはあっても、私に書いてくることはない。
私自身旅が終わるまでこの地に安住すると決めていなかったので手紙のあて先など伝えていないのだ。

「大丈夫だよ。あけてごらん。」

不安が顔に出てしまったのだろうか?

養父が大丈夫というのなら、きっと大丈夫。
銀色の髪とグレーがかった青い瞳で優しく微笑む養父。
彼ならちゃんと調べた上であけて大丈夫と言ったのだろうから。


赤い封筒を開封する。
中に入っていたのは1枚のカードと1枚の紙。

この紙は知っている。
セルフォリーフというところで世界のバランスが崩れているという話。
王立騎士団からも応援部隊を出すとか出さないとか・・・・。

それぞれの世界のバランスは脆く積み重なっている。
このイシリアにも古き神々、新しき神々とそれを封じる騎士団、ギルドの大きな戦いがある。
最近、税金があがったのもそのためだ。
騎士団を増強するためなら仕方ないと思っている。
その戦いがこの世界のバランスを決めているのだから。

どこかの世界のバランスが崩れると、他の世界にもなにかしらの影響はある。
明らかにバランスの崩れようとしている世界があれば、それを修復しようとするのは当然だ。
冒険者ギルドも近いうちに修復部隊を送り込むための希望者を募っているとか。

この紙はその希望者募集の広告にも掲示されていた世界バランスの警告文章だ。


そして、もう一枚のカード。
書かれていたのはたったの一文。


『世界復元の裏で火喰い鳥の民を再び呼び起こそうとする者がいる。』


火喰い鳥の民。
それこそ華煉さんが堕ちた姿。
緋色の炎のような翼を持つ種族。
華煉さんを最後に世界から消された種族。


火喰い鳥の民は精霊の影響をうけているだけあって、非常に良い霊的媒体で、その身体は良いものも悪いモノも憑依させられる良質な器。
火喰い鳥の民に悪いモノが憑ついて、世界のバランスを揺るがせたこともあるらしい。

そんな火喰い鳥の民を呼び起こす?
バランスの崩れた世界を修復する影で、また新たな火種を起こそうとする動きがあるということ?


背中で翼がパタパタを動く。

火喰い鳥の民を呼び起こそうとする動きがあるなら、
そして、その結果私の身体に変化が起こっているのであれば・・・


「止めなきゃ。」


私は火耶という名前も捨てた。
今は「カヤ」として生きている。
この国で平和に人として生きたい。

私は火喰い鳥の民になりたくない。
世界を揺るがす存在など起こしてはいけない。


「来いというのなら言ってあげる。」


セルフォリーフ。
崩れかけた世界へ。
その修復の裏に潜むものを断ち切るために。

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