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精霊伝説:波紋を斬る者 ヴェル、災渦の日記 (+カヤ・ボーフォートのセルフォリーフの日記、アンジェリカ・ラッセルの偽島探検記+イシュケ、翠祀)
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9日目の日記

『昨日は今回の遺跡で一番強い敵とぶつかりました。

本当は少し休みたかったけど、どうしても魔法陣まで到達したかったので強行しました。

あと一撃というところまでいったのですが、残念ながら敗れました。

アンジェリカは一番最初に落ちてしまったので役立たずでした。

それに、』



ここまで書いて「ふぅ」とため息をついた。
先日の戦闘を思い出すとあまりの不甲斐なさにため息しか出ない。
狙いをあまりにも絞りすぎると、敵に察知されて避けられやすくなる。
そう聞いてはいた。
だけど、敵の数を減らすことが大事だからと狙いを絞って撃ったスローイングダガーは2発とも外れ。
ハッシュも何回も避けられた。

「本当に情けなかったな・・・」

ため息をつく。
そんな彼女に声をかける者がいる。

「マスターは気にしすぎなのですよ。」

ことこと・・・と音がする。
紅茶のいい香り。

「さぁ、これでも飲んで。気を取り直して日記をお書きください。」

長い髪のその女性が差し出したのはブレンド・ティー
甘いバニラの香りがする紅茶。
一口飲んで顔をしかめる。

「・・・・私、この前のオレンジ・ティーの方が好きだな」

小声で言ったつもりだがどうやら聞こえてしまったようだ。


☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆



一週間ほど前にこの島のマナから解き放たれて、ずっとこの少女と一緒にいる。
自分に対しては我が侭を言ってくれる。
そこが可愛らしい。
その我が侭をもっと叶えてあげたい。
まさか、この私が人間ごときに、このような感情を抱くとは思わなかった。


「前のオレンジ・ティーですか?じゃあ、すぐ入れなおしますね。」

「いいよ。捨てるともったいないもん。次から、このお茶はダージリンとブレンドしてもう少し甘さを薄めてね。」


不承不承、彼女はお茶を飲む。
飲んでくれる。
それを見て私はとても暖かい気持ちになる。



☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆



なんで、笑っているんだろう。
文句を言ったのに。
ニコニコしている緋魅を見ていると、何やらうすら寒い気持ちになる。
なんでこんなに笑っているんだろう。
今までの野犬や蚯蚓と違って意思疎通できる相手だけに迂闊なことはいえないが・・・・正直言って気持ち悪い。
だけど、それも強いペットを従えるまでの辛抱。

どうやら緋魅は私が日記を書き終えるまで、部屋から消えるつもりはないらしい。
お茶ではなく、緋魅にため息をつきながら、筆をとる。


『それに、元偽妖精の緋魅さんもアンジェリカと同じ時に脱落してしまったので、ケサちゃんとフローラお姉ちゃんを守れませんでした。

こんなに悔しい思いをしたのははじめてです。

もっと訓練して、ケサちゃんとフローラお姉ちゃんの足を引っ張らないようにしないといけないって思いました。

でも無事に全員魔法陣を踏んで遺跡外に出ることができました。

久々に帰ったおうちは暖かいです。

ベルさんはフローラお姉ちゃんみたいに怪我を治すことができるみたいなので、とても頼りになります。

そういえば、ママもパパも人を治せる人でした。

アンジェリカもいつか人を治せるようになりたいけど、この島にいる間はフローラお姉ちゃんを頼ろうと思います。』



「おや、私を頼っては下さらないのですか?マスター」


視界にオレンジ色の毛先が見える。
振り返ると緋魅が日記を覗き見してた。
慌てて日記を閉じる。


「人の日記を読むなんて最低。」

「おや?読まれるのが嫌なら、なぜそんな物を書いているのですか?」


こうやって書いた文章は自分であとで読み返すためと、家に帰った時に両親に報告するために書いている。
両親に見せるために書いてはいるが、緋魅に読ませるために書いている訳じゃない。


「緋魅」

「はい。マスター」

「呼ぶまでどこかに消えていて。私は落ち着いて一人で日記を書きたいの。いい?」



☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆



軽く舌打ちする。
だが、真名を呼ばれては仕方ない。

「わかりました。では終わったら呼んで下さい。」

そう言って姿を消す。
文字通り姿を消したのだ。
私はこの場所にいる。
少女の日記も読みたいし、少女のそばから離れたくはない。



☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆



消えてくれた。
ようやく一人になれた。
甘い紅茶を一口飲んで、また日記を書き始める。


『そうそう。クリスマスなのでプレゼント交換会がありました。

アンジェリカのところにはお手製らしい傷薬が届きました。

怪しげなマークのついた傷薬だけど、効き目はどうなのかな?

この薬は合成してみてもいいかもしれないってシュライクさんが言ってました。

去年のクリスマスはパパとママと一緒に本家で過ごしたけど、今年はイベントに参加してきました。

その間、ずっと偽妖精の緋魅さんと一緒でした。

緋魅さんは最近アンジェリカのお仲間になった妖精さんです。

アンジェリカの赤いオーラと違って少し色の混じった赤色のオーラをしています。

スカーレットみたいです。妖精といってもレッド・キャップみたいなのじゃありません。

綺麗で不思議な人です。

でも、次に強い使えるペットを従えたら、別れる予定です。

それまでは私を守ってくれるらしいです。

お話できるので今までのペットとは違いますが、いつも笑ってて気持ち悪いです。

ランドウォームとかもそうだけど、いつも笑っているのはちょっと怖いです。

もうちょっとかっこよくて魔法が使えて回復もできる便利なペットが見つかるといいなって思います。』


「よし、書ーけた!」


パタンと日記を閉じて、ペンを仕舞い、日記も仕舞って・・・


「う~~~ん!!」


軽く背伸びをしてから、ゆっくりと紅茶を飲んだ。


「うん、美味しい。」




☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆



呼んでくれるのを待っていたが、飲み終えた少女はどうやらそのまま眠ってしまうようだ。
呼ぶまで消えているように言われた以上、出て行くわけにもいかない。

しかし、あの日記の内容・・・・。
オーラが云々という話も気になるが・・・・

『次に強い使えるペットを従えたら、別れる予定』

とは・・・。


姿を消したまま、椅子に座ったまま眠ってしまった少女にブランケットをかける。

「さて、どうしてやりましょうかね・・・・・」

まだ、この少女のウォッチはやめられない。
されば・・・・・解雇されたら、その次の相手に乗り移ればいいだけだ。


彼女の次のペットが話せる動物であるといいのだが・・・・。


ブツブツと呟く声も目の前で眠る少女の耳に届く前に消えた。

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