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精霊伝説:波紋を斬る者 ヴェル、災渦の日記 (+カヤ・ボーフォートのセルフォリーフの日記、アンジェリカ・ラッセルの偽島探検記+イシュケ、翠祀)
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「あれ?みんな?」


はぐれてしまったメリッサさんを探していたはず。
もうそろそろ戻らないといけないのに、緋魅たちともケサちゃんともはぐれてしまったみたい。

平原を吹きすさぶ風に視界を阻まれたほんの一瞬のこと。
目に入ったゴミで涙がぽろぽろ出て・・・目を開けたら誰もいなかった。

強い風が吹いていたはずなのに、なぜか霧の中。
どこからこれだけの霧が出てきたのか・・・


「ケサちゃん・・・緋魅・・・どこ行っちゃったの?」



ほんの少し先も見えない深い霧。
下手に歩くと躓いてしまいそう。
広い平原で何も障害物はなかったはずだけど・・・

思い切って少し進んでみる。
少し足元がぬかるんでいるけど、気にせず慎重に歩く。
少しずつ湿地に近づいているみたい。
だけど、湿地なんてあっただろうか?

ふと目の前に何かの影
人じゃない。
何か大きな・・・・

近寄って見ると古びた小屋が一つ。
誰かいるかもしれない。


Knock!Knock!Knock!


「すみません。どなたかいらっしゃいませんか?
 道に迷ってしまったみたいで、・・・・霧が晴れるまで休ませて欲しいのですが。」


返事はない。

扉を軽く押してみる。
きぃぃぃいいい と金属のこすれるような音がして扉が開く。

入ってすぐに目に付くのはテラスに面した部屋。ダイニング?
その奥に大きな台所。
埃だらけだけど、大鍋、寸胴、小さな鍋が4個ぐらいにミルクパン
フライパンが大きさ違いで3つ
包丁が5種類に果物ナイフが一つ。
調味料は塩、胡椒、砂糖以外にナツメグ、ローズマリー、オレガノ、タイム、バジル、パセリ、ターメリック、・・・・

これ・・・ちゃんと料理する人が揃えた台所だ。
だけど、長いこと使われていない。

奥にもう一部屋。
扉はなくて中が覗けるようになってる。
ベッドルーム。
だけど・・・・なぜか御札のようなものがたくさん貼られている。
床には魔法陣
ベッドを中心にとても複雑で大きな魔法陣。

この部屋には入ってはいけない気がする。
何かよくないことがあった気がしてならない。
踵を返して外に出ようとしたそのとき


────────待って────────


かすかな声。
だけどはっきり聞こえた。
私を呼ぶ声。


「だぁれ?誰かいるの?」


────────持って行って。お願い────────


「何を?」


────────この石。この石を持って行って────────


何かが光る。
魔法陣の中。
赤い石?

魔法陣の外から手を伸ばしてもあの石なら届きそう。
魔法陣を踏まないように気をつけて、そっと腕を伸ばす。

拾ったのは小さな赤い石。


────────元々は腕輪についていた石。どうか持って行って。────────


「私が持って行っていいの?」


────────貴女に持って行って欲しいの────────


「この石・・・魔法陣の部屋から出しても大丈夫なの?私に何か悪いこと起こらない?」


────────貴女には何も起こらないわ。だからどうか持って行って。────────


少し考えて・・・・石を持ったまま部屋を出る。
そのまま小屋の外に出て・・・・


ぐしゃ!


音に驚いて振り返ると小屋は潰れて、そして風に吹かれるまま砂塵のように散って行った。
まるでこの石を守る役目を終えたかのように。
あとには何も残らなかった。

残っていないように見えた。

だけど・・・・何か光ってる。
ナイフ?
装飾の凝ったナイフ。
このナイフにも赤い石がついている。

それを拾い上げて・・・・






「マスター、しっかりしてください!」


「あ・・・あれ?」


目の前には緋魅の顔。
抱きかかえられてる?
どうして?
緋魅がほっとした顔をしてる。
何?


「突風に吹かれて、背丈ぐらいの小さな窪地に落ちたのですよ。背中を打たれて今まで意識を失っておられたから。
 ケサさんもずいぶん心配されてましたよ。先ほど、ピリオーザさんとラルゴさんと薬草を探しに行かれました。」


「ん・・・」


言われて身体を軽く動かしてみると背中が痛い。


「いたっ・・」


「まだ動かないで下さい。少し熱を持ってる。冷やした方がいいですね。氷彌に冷やしてもらって下さい。」


氷彌さんがそっと背中に手を当ててくれる。
冷たい!って思ったけど、すぐに気持ちよくなってきた。


「マスター、お背中見せていただけますか?」


氷彌さんがいうので、ワンピースの背中のファスナーを下ろそうとして気づいた。
何かポケットに入ってる。

ポケットの中から出てきたのは・・・


「あれ?これ・・・夢の中で見た石とナイフだ。どうして・・・・」


不思議。不思議。何が起こったんだろう。
ふと顔を上げ・・・


「緋魅、どうしたの!!」


緋魅を見て驚いた。
あんなに目を見開いて、顔を強張らせて。


緋魅は、なんでもありません、とだけ言ったけど、とてもなんでもないように見えなかった。



『29日目の日記

地下4階に降りてきました。

その前をエドって言う人が通せんぼしてたけど、強行しました。

この先には島の核があって、そこには心を失った女の子がいるって。

この先に一体何があるんだろう。それがとても気になります。

エドさんは寝ちゃってそれ以上何も教えてくれなかったけど。

でも、ケサちゃんやフローラお姉ちゃん達と一緒ならきっと大丈夫。きっとアンジェリカは大丈夫。』

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