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精霊伝説:波紋を斬る者 ヴェル、災渦の日記 (+カヤ・ボーフォートのセルフォリーフの日記、アンジェリカ・ラッセルの偽島探検記+イシュケ、翠祀)
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潮の香りがする。
精霊協会の本部からそう遠くない場所に海沿いの町があったのは幸運だった。
俺はこの町をベースキャンプにしようと決めていた。
 
まだ早朝。
海に近い町では朝漁から帰ってくる時間帯からにぎわい始める。
その前の時間帯なら町を行きかう人間は少ない。
俺はサングラスごしにできるだけ人間を見ないように、建物だけを見て町を通り抜ける。
探しているのは青い花の看板。
この町では海に近い白い家にその看板はあった。
 
青い花。
この看板をかけている宿やレストランは宗教的戒律で魚や肉を食べられない民専用の場所。
だいたいどこの町に行っても一軒ぐらいはあるものだ。
この町では二、三軒あると聞いていたが、小さいけれど白い家が比較的静かだと聞いていた。
早朝なのに朝ごはんを用意しているような匂いがする。
誰か宿泊している客がいるのだろうか?
それとも家人用の朝食だろうか?
少し悩みながらも扉をノックした。
 
 
迎えてくれたのは40歳前後だろうか?
ややぽっちゃりとした女性。
あぁ、「ヒト」だ。俺は思わず微笑んだ。
 
「朝早くにすまない。ありがとう。ここはこの(そういって俺は青い花を指差した)タイプの宿だよな?部屋はあるかい?」
 
自分でも陽気な声が出ているのがわかる。
 
「よう、おこしやす。お一人ですか?」
「一人。あー、あとから連れが来るかも!」
「お連れさん遅れてはりますの?」
「いや、これから探すんだ!そうだ。ここから精霊協会の本部ってどうやっていくのが近い?」
「あぁ、そういうことどすか。えぇ人に会えるといいですなぁ」
 
そういいながら部屋へ案内してくれた。
 
「今は誰も居ない?」
「そうですなぁ。今の季節はこの宿を使う人は少ないですわ。ですから、下の食堂を開放して健康的なお食事をお出ししとるんですよ。」
「ふーん」
 
俺は少し考えて、女将にちょっとしたお願いをした。
「どうかな?」
「そりゃええですけど・・・・高うつきますけど、大丈夫ですか?」
「支払いはこれでどう?」
 
俺は銀色のきらきらした物を袋から3枚ほど取り出してみせた。
女将は息を飲んだ。
 
「あんまりそういったもんは人前でお出しにならない方がよろしおす。」
「うん、あんまり出さないようにしてるけど、女将は信用出来るから。」
「そういってもらえるのはうれしおすけど、心配やわぁ。お客さん」
「ヴェルって呼んでよ。で、どう?」
 
ため息をつきながら女将はそっと受け取ってくれた。
 
「よろしおす。今日から貸切にして、ヴェルさんが食事される時間帯と一般用のレストランの営業時間は分ければええんですな?」
「うん。俺、あんまり他の人と一緒に御飯したくないんだ。あ、女将は一緒でもいいよ。あと俺が選んでくる連れもね。」
「部屋はどちらにされます?道沿いのほうと海側の部屋がありますけど?」
「ん・・・・今は道沿いにしておいて。時々海側の部屋で寝てもいい?」
「ええですよ。どの部屋もヴェルさんが借りはったんですから、お好きに使うて下さい」
 
宿に荷物を置く。
町はそろそろ人出が多くなってくる頃だ。
だが、本部に集まっている人はまだ少ないだろう。
一番多いのは午後一ぐらいのはずだ。
 
海沿いの部屋に入ってみる。
青い海。綺麗な青い海。
 
「災渦、いるのか?」
 
答えはなく、ただ靄のようなものが揺らめくばかり。
俺はため息をついた。
 
女将の手料理を馳走になったあと、貴重なものは自分でもっといて下さいね、という女将の声を聞き、小さな袋を手に俺は宿を出た。
精霊協会の本部へパートナーを探しに。
 
町には大勢の人間が溢れている。
精霊協会にもおそらく大勢の人間がいるだろう。
俺はサングラスごしであっても極力人間を見ないように早足で歩いた。
 
精霊協会の場所はすぐにわかった。
人間が溢れている。
俺は吐き気をこらえながらも空気のよどんだ建物に入った。
 
ようやく目指す場所に辿り着く。
ここではパートナーとなる相手を探すことが出来る。
係員の出す書類に名前と自分の特技と連れに求めること、希望パーティ人数を書かされる。
 
俺の特技は遠隔攻撃。
相手に求めることはヒーリングできる前衛壁。で、肉、魚を食べないこと。
 
俺が紙を提出すると係員は不思議そうな顔をしていた。
どうやら食生活まで知らないらしく、エントリー待ちしている人に聞いて回っているようだ。
この待たされる時間が苦痛だ。
 
「すみません。ご要望の条件に合う方はいらっしゃいません。条件を弱めるかここで待つかです。」
「条件の何かを緩めたら該当する人がいるか?」
「そうですね。食事がなければこの二人のどちらかでいかがですか?」
 
と紹介された二人。
一人は骨付き肉を食べている。もう一人は揚げた魚をパンで挟んだものをうまくもなさそうに食っている。
人間じゃないか。
 
「無理!それにこんなところで待つのも無理!宿にいるから条件にあった人がいたらキープして連絡くれよ」
「そんな要望受けてたらこっちはそこらじゅうの宿まで走り回らないといけなくなる。相手が必要ならここで待て」
「俺に肉や魚を食っている連中のなかで待てっていうのか?」
「あなたの言うその人達はごく普通の人間です。だいたい、前衛壁回復なんてそうそういないんですよ。」
「それを仲介するのがあんたの仕事だろ!」
「要望を緩和させてパーティメイクするのも私の仕事です。コンビ希望だって珍しいんですよ!」
 
周りの人間たちが変な目で見ているのがわかる。
注目されて気分が悪くなる。
くちゃくちゃと肉を食っている連中。お行儀よくナイフとフォークで魚を食っている人間。
空気が悪い。耐えられない。
俺は出なおすと言いかけたそのとき、
 
「君の名前は?」
 
後ろから声がした。
振り返ると「ヒト」がいた。ここで初めて見た「ヒト」だ。
 
「ヴェレシュナイダー。ヴェルでいい。」
「了解、ヴェルと呼ばせてもらうよ。ああ、すまない。名前を聞く前に俺から名乗るべきだったな。俺の名前はレグナイ・スピラティカ。レグとでも呼んでくれ。
で、ヴェル。何があった?」
俺はここまでのいきさつと、やり取りを男に伝えた。
「それなら俺と組まないか?俺も組む相手を探していたんだ。肉も魚も食わないから、その点は安心してくれ。」
 
ようやく見つけた「ヒト」。逃してたまるか!
 
「助かる。俺はあんたがいいよ、レグだったか?」
「ああ、レグで良い。」
 
様子見していた係員がレグに意思確認して書類を書かせている。
早くしてくれよ。おれはここからすぐ出たい。
 
「待たせて悪いな、終わったぞ。」
「よし。行こう。宿は取ってあるんだ。着いてきてくれ。」
 
俺は早歩きで出ていく。レグが何か言っていたが、俺はもう1秒たりともここに居たくないんだ。
 
急いで宿に向かう。
途中、数回後ろの気配を伺ったがレグは黙ってついて来ている。
振り返るたびに道の脇にいる人間が目に入る。
俺はレグの足音を憶えると、途中から後ろを振り返ることなく、ひたすら足元だけを見て宿に歩いた。
 
「おかえりなさいませ。あら?お連れさんみつかったんどすか?よろしゅう。」
 
宿に入ると清浄な空気につつまれる。
あぁ、この宿で正解だった。
 
「ただいま。相方連れてきたよ。女将よろしく」
 
女将とレグが挨拶しているが、俺は本当に疲れていた。
 
「悪い。ちょっと疲れてんだ。部屋にいるから落ち着いたら声かけてくれ。」
 
そういってさっさと階段を上がる。
 
「あら、お客さん、ひょっとしてブラクエイの方どすか?」
 
女将の声が聞こえる。聞きなれない名前に少し気を惹かれたが、休むのが先だ。
道沿いでも波の音が聞こえる。潮の香りがする。
 
「災渦・・・」
 
ゆらゆらと霞が揺らめいて、俺は少し安らいで眠りについた。
 
ノックの音がした。
まだ陽が高い時間帯だ。少しだけうとうとしたらしい。
俺は半ば寝ぼけながらレグを部屋に迎え入れた。
レグが地図を広げながら何か説明をしてくれる。そういえばこいつはあの係員と何やら話をしていたな。
 
「1つは精霊兵研究所からの依頼。これは新しく製作された精霊兵の訓練相手を募集しているみたいだ。まぁ、気楽に行けそうだな。もう1つは、ハイデルベルクから地方都市までの隊商の護衛だな。ゴブリンの一団に交易品を狙われるらしい。」
「俺、まだこの武器の使い方に慣れてないんだ。どっちでもいいなら、最初は武器ならしできるような楽勝のところがいい。」
「そうだな。お互い今日見知ったばかりだし、楽勝なので慣らしておこう。よし、じゃあ精霊協会に行って精霊兵研究所の依頼受けてくるよ。ヴェルは今日あんな事があったばかりだし…俺が行く方が良いだろう?」
「頼む」
 
レグはいい奴だな。
レグが出て行ったあともう一度眠りにつきながら、俺はそんなことを考えていた。
 
 
階段のほうから音が聞こえる。
これはレグの足音だ。
精霊協会から戻ってきたんだな。
短い眠りだったが、清浄な空気の中での眠りは俺に少しだけ健全な気持ちを取り戻してくれたみたいだ。
 
「おかえり」
 
二階に上がりきった頃にドアを開けてレグに挨拶する。
ちょっと驚いているみたいだが、ただいまと言ってそのまま俺の部屋に来た。
明日の依頼に必要なものを説明してくれている。俺は一通り聞いて頭の中に記憶した。
 
「ところで、ヴェルがまだ使い方に慣れていないと言ったその武器変わってるよな。なんでか、普通の刀に見えない。」
「まぁな。これ刀の形しているけど、水で刃を作り、氷礫を射出もできるんだ。明日には披露するよ。それより、なぁ、さっき女将が言ってたブラグレイ?ってなんだ?」
「ええと、ブラク"レ"イじゃなくてブラク"エ"イだな。何もないような小さい島だけど、俺の故郷なんだ。」
 
そういってレグはブラクエイの話をしてくれた。
島国だとか、ちょっと変わった宗教の話。国の風習や季節の話。
 
あぁ、そういえば、全員が「ヒト」の島が世界にはいくつかあるって聞いたな。
そうか。レグはそこの「ヒト」なんだ。
俺もその国なら行けるかな。
 
パチャっていう不思議な食べ物も見せてくれた。
こいつ料理も上手そうだな。と思ってたら階下から声がした。
 
「ごはんできましたけど」
 
気がつくとあたりは陽が落ちてそろそろ暗くなりかかっている。俺はサングラスを外した。
 
「お前、変わってるな。でも俺、お前のこと気に入ったな。」
 
俺の声が聞こえたのか、聞こえてないのか、少し赤くなったレグは慌てて自分の部屋に荷物を置きに戻って行った。
 
 
その日の夜は俺とレグと女将と楽しく夕食を食べて、俺はとても気分が良かった。
昼寝をしたから眠れないかと思ったが、どうやらあの昼寝は俺の精神の傷を癒すだけの効果しかなかったらしく、俺はあっさりと眠りについた。
 
 
夢を見た。
人魚の夢だ。
銀色の長い髪
海の色の青い瞳
微笑む姿も美しい、しなやかで、細くて、でも豊満な胸と腰。
曲線の肢体の美しい人魚の女性。
 
 
朝起きて夢を思い返し、はっと自分の身体をチェックする。
だが、俺の身体には何の変化もない。
 
「俺、どっか変なのかな?ストイックすぎる・・・」
 
ぽつりとつい言葉がこぼれた。

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