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精霊伝説:波紋を斬る者 ヴェル、災渦の日記 (+カヤ・ボーフォートのセルフォリーフの日記、アンジェリカ・ラッセルの偽島探検記+イシュケ、翠祀)
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「これからよろしくね。妖精さん。」



金髪の少女がにっこりとわらいかける。
捕らえられた。どうしようもなく魅かれた。
この力には抗えない。



「これから、ケサちゃんとフローラお姉ちゃんとそれから私を守ってね。」



守る?
これまで襲っていた相手を守る?
なぜ?
どうして?



「一緒に行こう。だから、名前をあげる。」

必死で枷から逃れようとする。
だが、どうしようもなく呪縛される。
惹かれて、魅かれて、捕らえられる。
金色の髪に。
その青い目に。
赤いリボンすら憎たらしいぐらい魅きつけられる。



「私に魅縛されたんだから、みーちゃん。
 ・・・・・だと、猫っぽいよね。うーーん。」



少女は小首をかしげて考えている。
今しかない。
今逃げなければ・・・・・・捕らえられる。魂ごともっていかれる。
この小さな人間に。



「魅かれて魅縛されたんだから、ひみちゃんにしようか?」



ドックン!!



何が起こった?
いま、この少女はなんと言った?
私の名前を何だと?



「綺麗な赤いオーラが見えるね。こういう色を東の方では緋色っていうんだって。とっても綺麗。」



ドックン!
ドックン!!
ドックン!!!



「緋魅・・・でどうかな?」




パリーン!!!




あぁ、今わかった。
この少女に捕らえられたのではない。
私はもっと前から縛られていたのだ。
この島に。
この島の狂ったマナに。

この少女は捕らえる者ではない。
この少女は・・・・・・・・解放する者だ。







.。.:*・☆.。.:*・° Sparkling Night  星降る夜に  .。.:*・☆.。.:*・







自分でもどうしてそう思ったのかわからない。
赤いオーラなら、スカーレットでもよかったのに。
魅了されたならチャーミングでもよかったのに。

どうして緋色なんて思いついたんだろう。
どうして東国の文字が思い浮かんだんだろう。

あとで緋魅にも聞かれたけど、答えられなかった。
何故か、思い浮かんでしまったのだ。
何故か、口に出してしまったのだ。


「緋魅・・・でどうかな?」


その瞬間何かが割れるような音がして・・・
そして・・・そして・・・・目の前で、偽妖精さんが姿を変えた。

綺麗な女の人?男の人?
オレンジの髪が綺麗。
オレンジ色の服を着て、そっと私の前にひざまずいた。


「貴女を守りましょう。マスター。」


私はというと・・・、口をパクパクさせるだけで、何も言えなかった。
そんな私を見て、緋魅は考え込むかのように口元に手をあてて、そしてその長い指で天を指差すとパチリッと指を鳴らした。


「ワンピースだけでは寒いでしょう。これを。」


そういうとふわっと何かに包まれる感触。
真っ赤なコート
白いふわふわの毛で縁取られた、暖かいコート。
でも・・・・これってまるでサンタの衣装??


「今日のような日はそういう服を身につけるものらしいですね。さぁ、マスター、行きましょう。」


あまりのことについていけない。
行くって言われても、ここは遺跡内のビヴァークポイントで。
みんなもまだ寝ているのに。


「行くってどこへ?」

「もちろん。」


そういって緋魅が指をさした先には、大きな大きなもみの木?
それがきらきらと光っている。


「さぁ、行きましょう。マスター。」

「でも、みんなと一緒なのに。」

「大丈夫。他の人もきっと一緒ですよ。心配なら少しだけ行ってすぐに戻れば大丈夫。」


綺麗。
本当に綺麗。

だけど、これは本当に現実?
これは偽妖精の見せる幻覚じゃないんだろうか?

こちらに手を差し出す緋魅。
どうみても、この妖精を私は縛している。


「緋魅。」


赤いオーラが輝く。緋魅が微笑む。


「はい。マスター。」


邪気はない。
だから、私は決心する。


「緋魅。誓って。何があっても私を守るって。」


緋魅は差し出していた手を引っ込め、そのまま胸に押し当てて、また跪いた。


「秘された真名を読み解く稀有な方。
 真名を正しく呼べる私のマスター。
 私は貴女の御名前を存知ませんが、誓いましょう。
 私の真名にかけて。
 私、緋魅は力の限り、生ある限り貴女を守護します。」


マナ?真名?
何それ?


「緋魅?」

「なんでしょう、マスター。」

「真名ってなぁに?」





☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°





「真名ってなぁに?」


よもや、こんなにも気の抜けることを言われるとは思わなかった。
この少女は真名すら知らない。
それがなんであるかも知らないのに、的確に見抜いた。
この島の気を吸い過ぎて、異形と化していた私の真名を。

真名を知るだけではない。
この少女は無意識で正しく呼んでみせたのだ。

真名を知り、呼びかけると言うことは、他者を従える力を持つと言うこと。
人々の上に立つ力を持っているということ。
それがどれほどの才であるかを彼女は知らないのか?

呆気に捕られた私はしばし何も言えなかった。
そんな私を、少女は不思議そうに見つめて


「緋魅、どうしたの?」


と呼びかける。
こんなときでも無意識に正しい韻を踏んで、私の真名を呼ぶ。

やはり、人というのは真名の影響を受けにくい種族なのだろうか?
そうでなければ、この少女の周りには救いを求める者たちが次々に集まったことだろう。
世界の歪みの影響を受けるのは人も同じなのだから。
 
守るべき少女。
だが、それだけではなく、私は彼女に興味を持った。


「真名というのは私にとって命より大切なものですよ。
 今、それにかけて貴女への忠誠を誓いました。
 私が貴女を裏切るようなことがあれば、真名を自ら汚す事になる。
 それは私にとって消滅するよりも辛いことなのです。」


そういうと彼女は驚いたように目を見開いた。
そんな彼女に魅かれてしまう。
それも悪くない。


「さぁ、行きましょう。マスター。」


私はもう一度手を差し伸べた。
どうか、この手をとってください。
そのときから、私は貴女を守ります。
決して寂しい思いをさせませんから。


伸ばした手に小さな指が触れる。
暖かい。
この暖かさを守ろう。


「しっかり。つかまって。」


少女を引き寄せ、そっと大地の頚木から放たれる。



二人で空を舞おう。
   この星降る夜に・・・・

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